令和4年7月定例句会

兼題「茄子の花」

茄子の花は、盛夏のころ、葉腋に先端が五裂した淡紫色の合弁花を下向きに開く。地味な花であるが、趣がある。
(合本俳句歳時記第四版より)

あっけなく梅雨が明けたと思ったら35度を超えるような暑さが連日続いています。
早くも台風が近づく予報もあり、四季のリズムが何となく崩れているようで、翻弄されてしまいますね。

兼題の「茄子の花」は、身近なようで意外と目にする機会がなく、また、どのような言葉と取り合わせたらよいか、難しい課題でした。
花の姿を描写しようとすれば植物図鑑の説明のようになってしまうし、かといって全然違う言葉を配合すると意味不明になってしまう…

 ふだん着の俳句大好き茄子の花  上田五千石

こういう付かず離れずの微妙なラインを狙って成功させるのは至難。ただ、答えが無いのが俳句の面白いところ、ともいえるかと思います。


今回も文語の活用の誤り、特に「下二段活用」の動詞の連体形に誤りが多くみられました。
現代の私たちが普通に使っている言葉で辞書を引けば、文語でどう表されるか、どう活用するかは書かれています。

そだ・てる【育てる】 [動タ下一][文]そだ・つ[タ下二]

たず・ねる〔たづねる〕【訪ねる】[動ナ下一][文]たづ・ぬ[ナ下二]

しら・べる【調べる】[動バ下一][文]しら・ぶ[バ下二]

例えば、「育てる」には、[文]そだ・つ と書いてありますが、この[文]というのが文語のことです。
また、「タ下二」というのは、「タ行下二段活用」の略で、その言葉が、タチツテトの下側の二段(ツ・テ)で変化しますよ、ということを表しています。

そして、下二段活用は、どんな言葉でも変化の法則は決まっています。ローマ字で書くと「e e u uru ure eyo」。
「育て」「育て」「育つ」「育つる」「育つれ」「育てよ」という具合です。

ここで、この法則の中に「eru」というものが無いことに注目してください。つまり「育てる」という形は無いということです。
何活用かが分かれば、文語の表記の誤りに気付くことができるというわけです。

これは、その他の活用でも同じで、規則を当てはめれば、それ以外に変化することはありません。
このあたりが、文語の美しさ、論理的なところといえるかもしれません。


※余談ですが、「育つ」という言葉には自動詞と他動詞があって、終止形は同じなのですが、活用の形が異なるため、もう一段階の注意が必要です(自動詞の育つは、四段活用、他動詞の育つは下二段活用)。
こういう言葉は他にもあって、俳句に使いやすい言葉に限ってこんな感じなので、こまめに辞書を引くことが大切です。

水分補給しながら
これはワルナスビの花

主宰の句

朝告ぐる祖母の声高茄子の花  日差子

主宰特選句

紫陽花や絵付弾んで皿茶碗    あつ子

曝書して父の青春白書かな    晶子

ががんぼに胸あづけたり磨崖仏  千惠子

互選高得点句

夏蝶や軽やかに席譲るひと     明恵

朝涼や角屋の奥の掛け時計     奈央子

西日濃しその傾きに刻を知り    啓子

梅雨の星しづかに仕舞ふ二胡の弓  新治

その他のメンバーの句

夏帽に余りし髪や浜の風       苦楽
白鷺の水平飛行森越ゆる       瑠美子
残り香のエレベーターや梅雨晴るる  蓮女
茄子の花あだなし今は親もなし    孝女
香水が人の形に残りをり       瑞憲
落ちてなほ紫紺鮮やか茄子の花    はるか
茄子の花艶やかな実も垂れてをり   康明
広島はサッカー王国茄子の花     五郎

2022/7/2